デジタル化の波 Signal-9

デジタル化の波 ~目次~

先月のことになるが、とうとうテレビは地上デジタル放送へ全面移行し、震災のあった東北地方の一部を除いてアナログ放送が終了した。

長く慣れ親しんできたゴースト現象、ちょっとザラつく画面、微妙に受信可能な映像をもう見ることができないのは少し寂しさすら感じてしまう。

大阪に暮らしていた頃、ビデオデッキ 2台を経由してテレビまで電波を引き回していたものだから、全国どこでも一定の感度で受信できるはずの NHKの画面が乱れ、ひどいノイズが乗った映像を見ていた。

もちろん、最初に電波を入力しているビデオデッキで見ると映像が綺麗なのは分かっているのだが、わざわざ電源を入れて入力切り替えまでして見るのは面倒だったのでノイズ乗りまくりの荒い画面を毎日見ていたのである。

それがデジタル放送になると一切のノイズがなく、今もレコーダー2台を経由してテレビに接続しているが、NHKを始めすべてのチャンネルがクリアに見えるのは実に喜ばしいことだ。

しかし、デジタルは 0 か 1、ON か OFF、つまり受信できるかできないか、どちらか一方しかないので、どんなに汚い映像でも良いから何とか受信したいという欲求には応えられない。

大阪では阪神タイガースの試合が見たくてKBS京都やサンテレビの映像を、ザラザラにノイズが乗り、ゴースト現象で選手が2-3人に分裂して見えるような劣悪な環境の中、目を充血させてまで見ていたものであるが、あのような微妙に受信できている状態というのはデジタルでは不可能なことだろう。

もう大阪に住んではいないので予想でしかないが、京都、神戸方面の放送を受信したければ、そっちに向けたアンテナが必要だと思われる。

あるいは SCテレビ放送に加入してタイガース全試合放送のサービスを受けるしかないだろう。

そういう融通の効かないのがデジタルであり、アナログのような寛大さがない。

ラジオのデジタル化に関しても随分前から議論はされているが、災害時、遭難時など、電波状態の良くない場所で何とか情報を得ようとするニーズは確実にあるはずなので、一定以上の電波品質がなければ受信できないデジタル放送は向かないのではないだろうか。

携帯電話にしてもそうで、アナログであれば例え山奥であっても微弱電波を拾って何とか連絡することができるかも知れないが、デジタルでは融通が効かない。

しかし今の携帯電話を考えると、メール送受信、Webページの閲覧など、通話以外の利用のほうが多いので、やはりデジタル化は避けられなかっただろうし、デジタル通信になったのは当然、必然の流れだったのだろう。

テレビのデジタル放送に話しを戻せば、双方向通信によって様々な情報が得られるなど、デジタル化のメリットは大きいが、それを享受できるのは操作を覚えられる人だけだ。

我が母は新しいリモコンのスイッチの多さに閉口し、業者さんに設定し直してもらった昔のテレビのリモコンを使い続けている。

したがって、リモコンにはデジタル情報を取得するための (d) ボタンなどない。

いつも天気予報を気にしている我が母だが、いつも見ている予報を見逃してしまい、同じ街に住む妹に電話をして明日の天気を尋ねたことがあった。

叔母は新しいものへの順応性が高く、ワープロだろうとデジタルテレビだろうと使いこなせるスーパー婆ちゃんなので、チャチャッとリモコン操作して予報を表示し、内容を我が母に伝える。

そして、単にリモコンの (d) ボタンを押すという 1ステップの操作でしかないので、我が母に操作を教えようとしたらしいのだが、説明を聞く前から
「私にはできない」
「古いリモコンを使っているからできない」
と言い張り、かたくなに教えを受けようとしなかったらしい。

さすがに叔母もキレたのだろう、我が母が何か言う途中でガチャリと電話を切ってしまっという。

たかがリモコンのボタンを一つ押すだけの操作を拒絶して覚えようとも聞こうともしない婆さんもどうかと思うが、それに対してキレる婆さんもいかがなものかと思う訳で、所詮は似たもの同士、同じ血が流れる姉と妹なのだと呆れ果ててしまう。

20日過ぎに帰省するつもりでいるが、デジタルの恩恵にあずかっていない我が母にリモコン操作を教えるべきか悩んだりしている今日この頃である。