誤用

どうも最近は間違った使われ方をしている言葉が多い。

それは俗にいう若者言葉とか、そういうレベルのものではなく、文章や言葉を商売にしているマスコミですら誤ったまま拡散させている。

北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手を二刀流と称するマスコミは多い。

投手としても、野手(打者)としても使うことができる選手であり、そのどちらも一流であるという意味で使っているのだろうが、そういう選手のことを正確には両刀使いというのではないだろうか。

両刀使いも二刀流も極めて類似した言葉ではあるが、両刀使いは侍が身につけていた主兵装(本差とも呼ばれる刀)でも、脇差し(小刀)のどちらも扱えるという意味であり、二刀流は両手に主兵装を持って戦う宮本武蔵が開いた剣術のことだ。

つまり、イメージ的には大谷選手が右手と左手にバットを持って打席に立てば、これぞまさしく二刀流ということになるだろう。

野球のルールにも打席に持ち込めるバットの長さ、太さなどに規定はあるものの、1本しか持ち込んではいけないなどという決まりはないので、ちょっと面白そうだし、このオールスター戦でネタ作り的にやって遊んでもらえないだろうか。

この二刀流に関しては両刀使いと微妙にしか違わないので完全なる誤用ではないが、つい先日の新聞記事は明らかな誤りだ。

『日本ハム大谷翔平が今季初登板で炎上』

これは7月12日の試合、オリックス戦で怪我からの復帰後、初先発となった大谷投手が 1回1/3で29球を投じ、2安打4失点となった事を報じた新聞記事の見出しである。

ネット関連で誰それのブログが炎上とか、問題発言でツイッター大炎上などという使い方をされるケースを多く目にするようなった昨今、どこかの新聞社のオッサンが正確な意味も知らないくせに、世の中の流れに乗ってみようと炎上の2文字を使ってみたのだろうが、そのタイトルは単に意味不明なものとなってしまっているところに中年の悲哀を感じてしまう。

年寄りが若者受けを狙ったり、迎合したりしてもろくなことにならないということを認識すべきだ。

会社などで若者言葉を使ってみたりする人がいるが、オッサンやオバハンの耳に届く頃には言葉自体が古くなっていることが多いため、若者の失笑をかうこと請け合いだし、使い方も微妙に間違っていることが多いため軽蔑されるのがオチである。

話をもとに戻せば、7月12日の大谷投手の登板で『炎上』的要素はひとつもない。

さらに言えば、見出しを炎上としているくせに記事には炎上の文字が一つもないのである。

そのタイトルを見せられたこちらとしては、久々の登板なのにボコスカ撃たれて大谷選手のブログかツイッターが炎上したのかと思いつつ記事を読んだのだが、炎上の炎の字すら見当たらない。

結局はちょっと炎上という言葉を使ってみたかっただけなのであろうし、その意味すら分かっていないのだろう。

ネット用語の炎上は、不祥事の発覚や失言などをきっかけに非難が殺到し、収拾が付かなくなっている事態または状況を差す。

この収拾がつかないほどというのが肝であり、単に非難されたり批判・誹謗・中傷を数十件や数百件くらい書き込まれる程度であれば炎上する手前であるため『ぼや(小火)』と呼ぶのが一般的だ。

今後、マスコミ関係者におかれましては十分に意味を理解した上でご使用いただければ幸いである。

かなり以前の雑感にも書いたような気がするが、日本においてリストラとは人員整理を指す。

会社をリストラされたと聞けば、人員整理で退職させられたのだろうと直感的に受け取ってしまう。

しかし、正確な意味のリストラ(リストラクチャリング(Restructuring)は、企業が不採算部門の整理、成長分野への進出など、業態の再構築をはかることであって、その一環として人員整理も含まれているのに過ぎない。

したがって、現在は成長分野へ進出すると前向きな意味でリストラとは言えない、言いづらいという実に妙な事になってしまっている。

たまに、どこを見ても面白い番組をやっていないので、チャンネルを通販番組に合わせてしまうことがあるのだが、そこで使われているカタカナは誤用が多いので笑ってしまうことが多い。

化粧品の通販で
「テクスチャーがきれい」
とか
「さらっとしたテクスチャー」
「とろみのあるテクスチャー」
などと言っているのをよく聞くが、それは化粧品のさわり心地やつけ心地、質感のことを言っているようだ。

本来は織物の表面の質感・手触りなどを指す概念であるし、コンピュータ用語でも3次元モデルの表面に質感を与えるための手法として用いられる。

手触り、質感という点でいえば、化粧品でテクスチャーと言っても大きな間違いではないかもしれないが、決して正確ではないことを自覚し、あまり多用するのは避けたほうが良いのではないだろうか。

もう一つ、同じ化粧品の通販で
「デコルテがきれいに見えるメイク法」
などと、鎖骨を浮き上がらせて見せるメイク術などというのを聞く。

しかしデコルテとは服飾において、襟を大きく開け、胸や肩、後背部をあらわにするデザインのことを指す。

つまり、ピンポイントで鎖骨のことではないし、人体の部位や部分を指す言葉でもない。

いつ誰が言い始め、それがどのように広まったのか分からないが、このままだと通販業界が訳の分からない言葉で埋め尽くされるのではないだろうか。

今でも通販では『落ち感』『くしゅ感』『きちんと感』などなど、オッサンにはついて行けない言葉が多用されているので、今さら手遅れなのかもしれないが・・・。