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北の人々北の人々

北海道に帰ってきて来年の 2月で丸 6年が経過する。

元々は北海道で生まれ育った道産子(どさんこ)であるため、その県民性というか道民性は自分にも備わっているものであり今さらながらに認識するものでもないのだが、大阪で 13年も暮らしていると少なからず風土に馴染んで知らず知らずのうちに自分に変化をもたらしたものと思われ、こちらに帰ってきて改めて道産子の特性に気付かされることも多い。

これが一応は政令都市である札幌にでも住めば大きな違いを感じないかもしれないが、人口が数万という地方の町に暮らせばそこに住む人々はいたって大らかであり、流れる時間があまりにもゆっくりしているような感じを覚えたものである。

特に大阪は日本一歩くのが速かったり、じっと信号機が青になるのを待っていられなかったりするほどせっかちな人が多く、そんな中に 10年以上も暮らせば多少は影響を受けて歩くのが早くなったり信号無視したりするようになっていたが、こちらに帰ってくると誰もセカセカと歩いてなどおらず、交通量の極端に少ない道路であっても誰も信号無視して渡ったりしていない。

最初の数カ月間は一台も車の通らない道で信号を守っているのが馬鹿らしく思えたが、今はイライラもせずじっと信号が青になるのを待つようになった。

歩行者であるこちらが交通ルールを守るのも当然のことながら、運転する人もまた実にマナーが良く、いや、あまりにもマナーが良すぎて恐縮してしまうことも少なくない。

今でも続けている毎朝の散歩では信号のない道を歩き、信号のない交差点を通ったりするのだが、道路に立って渡りたそうな気配でも見せようものなら多くの車が止まってくれる。

こちらとしては、その一台さえ通り過ぎれば他には車が来ていないので行くのを待っているつもりなのに、そのたった一台の車が止まってくれてしまうのでペコペコと頭を下げながら小走りで道路を横断することになってしまう。

そんなことをされては逆に気を使ってしまうし、できることなら走りたくもないので可能であればそのまま通り過ぎていただきたいところなのだが、こちらにはとっても親切な人が多くて歩行者を優先させようとしてくれる。

仕方がないので最近では道路を渡りたい素振りを見せず、車が来ていたらわざと車道に背を向けて逆方向を見てみたり、街路樹に生っている実をながめたりしながら 「私は道路を渡りたくなんかありません」 的なオーラを発散させつつ、横目で車が途切れるのを待っているようにした。

建物の敷地から車道に出ようとしている車も歩行者を最優先にしてくれるので、それにもこちらが恐縮してしまうことも多い。

その車からはまだ 5メートルも 10メートルも前を歩いているのだから、大阪の、いや、普通の都会の感覚からすれば先にブオーンと発車してしまえば良いのであって、そうされてもこちらとしては身の危険を感じることも感情を害することもないのだが、こちらの運転手さんはじっと通りすぎるのを待っていてくれる。

いかにも 「待っているから渡ってね」 という雰囲気があれば、こちらとしても早足で通り過ぎたり、お先にどうぞという意思表示をしたりできるのだが、家の中から誰か出てくるのを待っているかのように後ろを見たり、出発の準備をしているかのように後部座席や隣のシートに手をやったりしているので、気にせず普通の速度で歩きながら車の前を通り過ぎると、直後にブオーンと出発して行ったことも一度や二度ではないので、歩行者を優先させてくれる運転手さんがどれだけ多いのかがうかがい知れるというものだ。

今年は少し秋が長く、今は一度降った雪も解けてしまっているが、そろそろ本格的な冬が始まろうとしており、来週は最初から終わりまで連日雪の予報が出ている。

北海道の冬は厳しく、野原は一面の雪に覆われ、冬に実をつける木々もないので野鳥はエサの確保に苦労することだろうが、渡り鳥であれば暖かい地方に移動すれば良いし、カラスであればゴミをあされば良い。

しかしスズメはそうはいかず、小さな体では海を越えて渡っていくのも不可能だろうし、雑食性であるにも関わらずカラスのようにゴミをあさる姿も目にしたことがないので冬の食生活にさぞ困っていることだろうと思っていたが、この町のスズメはみんな丸々としているのが不思議だった。

ところが数日前の独り言にも書いたように、この町には鳥を餌付けしている家が多いことが分かったので、今となってはコロッとしたスズメが多いのもうなずける。

いつも歩く散歩コースだけで 10軒ほど庭に餌台を置いており、そこには多くのスズメが集まって来ているが、いつも決まった道しか歩かないのに 10軒も見るということは、この町全体ではいったい何軒の家に餌台があり、どれだけの量のエサをスズメたちは食べさせてもらっているのか。

北海道の人に、この町の人になぜエサをあげる人が多いのかは不明だが、厳しい冬の時期に鳥たちがお腹を空かせては可哀想だという優しい気持ちの持ち主が多いのかもしれない。

しかし、それにしてもスズメにとっては厳冬どころか労せずエサにありつけるのだから暖かい時期より楽なものであり、2-3軒ほどハシゴすればお腹いっぱいになるだろう。

これほどゆったりとしており、親切でやさしい人々に囲まれながら暮らすことに慣れてしまった今、もう二度と大都会では生活することなどできないかも知れない。

田舎は不便なことも多いが、セコセコと、そしてギスギスとした中で暮らすより、のんびりとした生活をするほうが自分に向いていると改めて実感したりしている今日このごろである。

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