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マサルノコト scene 1マサルノコト scene 1

  元旦から一週間が経過して年賀状も届き渡ったようだが、古くからの友人であるマサルからの年賀状は届かない。 最近になって聞かれる親友という定義、『メールは 15分以内に返す』 などという薄っぺらな付き合いではないので気にはならない。 去年、久々に電話をすると移転案内が流れてきて初めて引っ越したことを知った。 その電話ですら一年ぶりくらいにかけたものだ。

  現代っ子からすると、そんなのが友人関係と呼べるのか不思議に思うだろうが、真の友人というものはベタベタとしていなくても互いが必要とするときに力になれば良いものであって、毎日のように話したり相手の機嫌を伺うようなことをする必要はないのである。 どんなに時間が経過しようが、何カ月、何年も顔を見なくても実際に会えばその時間が一瞬にして埋まり、何ら変わりなく付き合えるものだ。

  移転案内で変更になった電話番号を知ることができ、話をしたのだが住所などは聞いておらず、ただ東京に住むことになったということだけ確認し、一応は E-mail アドレスだけ控えておいた。 そして昨年末、「年賀状を出してやるから住所を教えなさい」 と一行だけのメールを送信した。 するとマサルから 「なんという高圧的な言い方だ!むかつくが教えてやる」 と住所が返信されてきた。 そして文末には 「以上だ!悔しかったら出してみやがれ」 と書き添えてある。

  むかっ腹が立ったが一応は元旦に間に合うように出してやった。 しかしマサルからの年賀状は今現在も届いていない。 現代のような希薄な友人関係であれば、それで壊れてしまうところだろうが、何十年も続く関係はその程度のことで崩壊することはないのである。 自分も変な奴だと自覚しているが、マサルも相当に変な奴なので妙に気が合うのかもしれない。

  以前、何かで一万円を貸したことがあったのだが、いつまで経っても返金してくれる気配がない。 それでも信用しているので何の催促もせずに放っておいた。 若い頃はキャッシュカードでお金を引き出してばかりで銀行の通帳に記帳などすることがなかったのだが、あまりに出し入れが続くと銀行から明細が送られてくる。 普段はそれすら見ないのだが、たまたま中を確認して驚いた。

  ミヤザワリエ様 入金 ¥2,000、コイズミキョウコ様・・・など、有名芸能人5人から ¥2,000 が振り込まれている。 そんなヒマなことをする奴はマサルしかいない。 ふざけ半分で借金を返してきたらしい。 すぐに電話して 「くだらないことをするな!」 と大笑いしながら言ってやった。 すると、「俺だって恥ずかしかったんだ!」 と言う 「『ミヤザワリエ様』 って呼ばれて立ち上がる身にもなってろ!どれだけの人に見られるか!」 と、自業自得のくせに怒っている。

  おまけに 「手数料だって 5回分もかかったんだぞ!」 と完全に逆ギレ状態だ。 いつまでも話に付き合っていられないので 「アホ〜」 と言って電話を切ってやった。 そして、それから何カ月も音信不通状態が続く。 実家は互いに同じ町にあるので帰省した際に会って酒を酌み交わす程度である。

  真の友人、とくに男同士の場合はそれで良い。 深く悩んだとき、本心から困ったとき、重大な決断を迫られたときに曜日や時間を問わずに相談できる相手。 損得抜きで付き合うことができ、時間や距離に間があっても心が通い合う仲間。 自分にとっての心のよりどころでもある。

  変な奴であるのが困りもので、逸話は数え切れないくらいあるのだが、それは次の機会に譲ることにしようと思う。

マサルノコト

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