何かの知識や技術があると神のように崇められ、まるで万能であるかのように思われることがあるものだ。
学校の先生もそうであり、人にものを教えるくらいだから何でも知っているであろうし、何でも知っていなければいけないような雰囲気にすらなる。
しかし、実際には教師といえども得意科目はあるだろうし、実は体育が苦手だとか音楽が苦手だとか美術などセンスのカケラもないという人だっているだろう。
毎日のように子どもと接しているのだから、当然のごとく子どもの扱いに慣れているだろうと思われているだろうし、さぞかし躾(しつけ)や教育に関しても完璧なのではないかと思われるだろうが、実際には教師の家庭に生まれた子のすべてが人格者になり、高度な知識を身に付けるかといえば決してそんなことはなく、不良になる子もいれば犯罪者になってしまう子どもだっている。
医者なども同様で専門分野以外の知識に乏しく、分野の異なる疾患に関しては手も足も出ないというケースはざらにある。
もちろん一般人よりも豊富な知識はあり、一通りの教育は受けているはずなので専門外のことに対して無知ではないだろうが、医者だからと言ってすべての病気を治してくれる訳ではない。
弁護士にしても得意分野というものがあり、夫婦間のトラブルに強かったり事件、事故関係が得意だったり IT分野ならお任せあれという人もいるだろう。
逆に苦手な分野もあるのは事実で、とくに IT分野は著作権が絡んだり専門用語、技術用語のハードルが高く敬遠されがちで、何年か前までは案件を引き受けてくれる優秀な弁護士というのは少なかった。
今は時代の流れからパソコンも普及し、一般の人でも用語を理解できるので若い弁護士であれば問題ないと思われるが、十数年前ともなると音楽の CDとパソコンで使う CD-ROMの違いから説明しなければいけなかったので大変だったのである。
ここまで挙げてきたのは俗に“先生”と呼ばれる職業だが、我々コンピュータ関連でも同じようなことが言える。
例えばこの雑感に何度も登場しているマサル、今は内勤になっているが数年前まではコンピュータ端末の修理のため現場を飛び回る仕事をしていた。
かかえる顧客が高齢であり、さらに離島に暮らしている場合もあったりするが、そんな技術者をめったに目にすることのない人たちは、ここぞとばかりに関係のないことまで依頼してくるらしい。
テレビの映りが悪い、CDで音飛びがする、やれ炊飯器だ冷蔵庫だと、様々な不満をぶちまけては修理してほしいと言ってくるのだそうだ。
彼らにしてみたらコンピュータみないな精密で複雑なものを修理できるのだから、テレビや冷蔵庫を直すなど造作もないことであると思い込んでいる。
しかし、構造から何からまったく異なる機器をチョチョイと修理できるはずもなく、断るのに一苦労するということだった。
ひるがえって自分。
パソコンを使う仕事をしていると、それに関わることは何でも知っていると思われているようだ。
その相談内容はパソコン本体が起動しなくなったということから急に動作が遅くなったという相談、アプリケーションの使い方からウイルスの駆除まで多岐に渡る。
この業界で何年も仕事をしているので一般の人より若干の知識はあるが、いままで述べてきたように決して万能ではない。
とくに初めて見るソフトウェアの使い方を聞かれても答えられるはずもなく、さらには画面を目にすることすらできない電話相談されても質問内容自体を理解することができないではないか。
設計などで使用される CADとか医療系のものなど、専門色の強いもの以外、パソコンのソフトなどというのは操作方法から使用される用語まで似たり寄ったりのものが多いので、ちょっと考えれば何とかなったりするものではあるが。
とりあえず、一緒に考えながら操作してみて使い方を導き出せてはいるので、何とか役には立てているものと思われるが、何でも知っていて当然とばかりに安易な質問をしてくるのだけはやめていただきたいものである。
人は決して万能になどなれはしないのだから。